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「サーキュラー・バイオエコノミーって何ですか?」|| 藤島義之/新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

2022.09.07|コラム

 

化石燃料補助金と人口増という懸念

──サーキュラー・バイオエコノミー社会の推進に、障害はありますか?

「最大の懸念のひとつが、原油産出に掛けられる巨大な補助金です。先進国は化石燃料の安定供給のため、巨大な補助金を費やしてきました。バイオエコノミーの意識の高まりから、2009年にはG20参加国による化石燃料補助金の段階的廃止が約束されましたが、現在でも年間50兆円もの補助金が使われているとされています」

 

──急には変えられない……と。

「はい。中近東諸国や北アフリカ、中国、欧米オイルメジャー石油企業は、この補助金を経済・経営の基盤にしています。この既得権を手放せるのか。補助金カットでガソリン価格の急騰や大量の経済難民が生じたら、世界が混乱するのではないか。世界のバランスに大きな影響を与える、非常に難しい問題なんです」

 

 

──10代の気象変動活動家であるグレタ・トゥーンベリさんも、化石燃料補助金の廃止を訴えていました。

「彼女のような若い世代の意見に、私たちも真剣に耳を傾けなければなりません。ただ、名指しされた大国も旧態依然のままではありません。たとえばアメリカは、バイオ燃料の開発に積極的です。1980年代から供給過多になっていたとうもろこしをエタノール燃料にする動きが活発になり、2005年からはガソリン供給におけるエタノール燃料の一定量の使用を義務づける『再生可能燃料基準(Renewable Fuels Standard:RFS)』が策定され、ニーズが高まりました。現在では、国の要である軍事においてもバイオ燃料が使用されているほどです」

 

──この他にも懸念はありますか?

「バイオエコノミーでは食糧問題も不可避の課題が、そこには人口問題も関係してきます。表立っての議論はタブー視されていますが、生物多様性を考えたときに適正な生態系バランスは何なのか? 人類はこのまま増え続けても大丈夫なのか? という問題も無視できません」

 

 

──このまま人口が増え続ければ、食糧が持つのかどうか……。

「人口増と中間層の拡大によって、2030年には世界でタンパク質の供給が追いつかなくなる『タンパク質危機』が起こるといわれています。また2050年には全世界の人口が90億人を突破し、食料危機を迎えるとも。そこで2013年に国連食糧農業機関(FAO)が提唱し、話題となったのが昆虫食でした。昆虫は従来の家畜と比べ高効率に生産できます。食品残滓をエサに使うというサイクルを回すことでも、昆虫食はサーキュラー・バイオエコノミーの考えに資するものだと思います」

 


私たち一人ひとりが取り組むべきこととは?

 

──地球全体のテーマでもあるサーキュラー・バイオエコノミーですが、これからの未来に向けて私たちが心がけることは何なのでしょうか?

「まず、もったいないという概念を思い出してモノを大事にしましょう。1世紀前の日本を思い出してみてください。今のように、次から次へとモノを捨てていなかったはずです。同じ衣服を着る。ほつれや擦れは補修する。サイズが合わなくなったらお直しするか、他人に譲る。リサイクル素材のフリースだからといって、1シーズンで捨ててしまうのは間違っていますから。また、選択肢があれば『環境負荷が少ないモノ』を選ぶのも一案です。バイオ由来の繊維で作られた衣服を選ぶ。自然エネルギーを推進している電力会社と契約する。サーキュラー・バイオエコノミーな活動に価値があると消費者が判断すれば、企業の活動にも拍車がかかるはずです」

 

──ライフスタイルを見直す必要がありますね。

「『1世紀前の日本を思い出してみて』といったのは、ただ郷愁に浸りたいからではありません。"古きを訪ねる"ことに実践的な価値があるからです。鎖国によって長らく自給自足の暮らしをしてきた日本の歴史は、サーキュラー・バイオエコノミーのひとつのサンプルとして検証する価値があります。木材料は徹底に再利用して、最後は燃料として活用していました。また下水は完備され、川に流れ込んだ糞尿は東京湾に生息する水生生物たちの栄養となり、また糞尿の一部は肥料として役立てられていました。助け合いの密接な社会コミュニティを形成した長屋文化や、味噌、納豆、醤油など保存性に長けた食文化……ミニマムでサステナブルな暮らしがそこにはあったのです。日本が経験したサーキュラー・バイオエコノミーの実例として、私たちは真剣に検証してみるべきだと思います」


"将来の危機"を防ぐために、目の前の便利さを避けるのは簡単ではありません。しかし、屋根を吹き飛ばす台風や異常な降水量による河川の氾濫など、気候変動によるものと思われるダメージは年々増えてきています。
一人ひとりが考え、具体的に行動に移すときがきているのかもしれません。”

 

 

※1「オイルショック」……1973年の第4次中東戦争時と1979年のイラン革命時、アラブ産油国による原油生産の削減と価格の大幅引き上げによって世界で巻き起こった経済混乱。先進国を中心とする石油輸入国は失業やインフレ、貿易収支の悪化という深刻な状況に見舞われた。
※2「地球サミット」……「環境と開発に関する国際連合会議」。ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催。ほぼすべての国際連合加盟国の代表や産業団体、市民団体などが参加され、地球規模で進行する環境問題について話し合われた。
※3「COP3」……1997年に日本の京都で開かれた「気候変動枠組条約第3回締約国会議」の略称。そこで採択された京都議定書にて、先進国は温室効果ガス排出量の削減目標を定め、より明確で具体的な行動が求められた。発効は2005年から。
※4「COP21」……2015年にフランスのパリで開かれた「第21回気候変動枠組条約締約国会議」の略称。そこで採択されたパリ協定では、京都議定書締結の際は留保された先進国以外も温室効果ガスの排出削減義務を負った。発効は2016年から。
※5「SDGs」……「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。17のゴール・169のターゲットから構成されている。
※6「バイオマス」……再生可能な生物由来の有機性資源で、化石資源を除いたもののこと。消費すればいずれ枯渇する化石資源と異なり、太陽エネルギーによる光合成によって自らを作り出せる有機物であることが特徴。さとうきびやとうもろこしなどの資源作物、家畜の排せつ物や食品廃棄物などの廃棄物類、稲わらや麦わらなどの未利用の有機物に活躍が期待されている。
※7「ダボス会議」……国際機関である世界経済フォーラムが開催する年次総会の通称。経済や政治など各分野のリーダーたちが集結し、世界情勢の改善に取り組むことを目的に議論が繰り広げられる。
※8「3R」……2000年策定の循環型社会形成推進基本法で示された行動規範。

 

 

 

Profile
Writer(ライター) / Hiroyuki Yokoyama

Writer(ライター) / Hiroyuki Yokoyama

横山博之
2000年に日本大学芸術学部文芸学科を卒業後、フリーランスのライターとして活動を開始。カバン、時計、ファッションと男のライフスタイルを彩るモノに詳しく、デザイナーや職人などモノづくりに関わるキーパーソンへのインタビューも豊富にこなす。時代を塗り替えるイノベーティブなテクノロジーやカルチャーにも目を向けている。

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Credit
Photo_MURAKEN
Text_Hiroyuki Yokoyama