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「荒廃し続ける日本の山林。その現状を伝え、循環を守る活動の始まりと、これからの物語 」|| THINNING

2022.09.10|コラム

 

■成功の秘訣は運営メンバー自身が楽しむこと

 

THINNINGを実施するにあたり、大切にしているのが『運営側も楽しむ』こと。

 

──みなさん本業もあるわけで、お仕事の合間を縫っての活動は大変だったのでは?

 

「かっこつけすぎて、負担が大きくなるようだと続かなくなるって考えは最初から共有していました。僕らも楽しんでやること。だからほぼ装飾せず、シンプルにして、お金をかけない。魅力のあるブランドを集めれば、自然と人が集まる場所になるでしょ、と。宣伝もホームページとSNS、あとは少しのフライヤーを作っただけで、お金をかけた宣伝活動も行わなかったんです」

ホームページのデザインからPR活動全般を手掛けたのが、メンバーで唯一糸島市外から参加した石橋整さんでした。林さんらがTHINNINGのビジョンを固めている席に居合わせ、話し合いに参加するうちにそのままメンバーとして加わることに。太陽と丸太が合わさったようなロゴマークをデザインしたのも、石橋さんです。

 

 

 


──このロゴマークの意味は?

 

石橋「間伐材の丸太に陽の光が差しているデザインで、間伐材や山林のことを知ろうとすることのシンボルになればいいと思って作りました。THINNINGというイベントの意味や僕らの意思、賛同してくれている人に対するメッセージを代弁するツールになればと。なにもないところからのスタートでしたから、僕らメンバーの気持ちを統一させる象徴にもなったんじゃないかなと思います。このロゴとウェブサイトができてから、活動がものすごく加速していきました」

 

手作りの一環として、2019年には間伐材を使った組み立て式テントを開発。THINNINGで出店する際に使われるようになりました。このテントを生み出したのが、木工作家の神武豊さん。祖父の代から木を扱う仕事をしていて、祖父の世代が子や孫のために植えた山の木を無駄にしたくないという想いと、長年一家を支えてきた糸島の山林に恩返しをしたいという気持ちから、THINNINGへの参加を決めたといいます。

 

 

──このテント、糸島の間伐材を使われているのだとか。

 

神武「はい。実はここ『GOOD DAILY HUNT』の内装も僕が手掛けていまして、床や壁の一部に糸島の間伐材が使われています。形の整った建材でなくても、考え方や仕組みをちょっと工夫するだけで、間伐材を無理なく活かせるんです。材料を吟味し、1番いいところを切り出して使うのが本来のやり方なのですが、そうではなく、さまざまな部位でもハマるようなデザインや使い方、言い換えれば『材料に逆らわないモノ作り』なら、ハードルを下げられるんです。

 

地元の製材所さんに持ち込めば、長さも厚みも自在に加工してくれますし、輸送コストもかかりません。僕にとって間伐材は利点のほうが大きくて。間伐材は無理なく活用できる資源なんだってことを、もっと多くの人に伝えたいですね」

 

 

メンバーの酒井航さんも、神武さんと同じく木工作家。木工製品を作り出す前は、修行の一環として約4年ほど岐阜と長野の山奥で家具作りを学びながら、林業にも従事していたという経験の持ち主です。

 

──酒井さんがTHINNINGに参加されたのは、どういった理由から?

 



酒井「糸島で独立してからは製品作りに従事していますが、この仕事を続ける上で、山森を健全に育てていくことの大切さを忘れたことはありません。僕の場合、ある人から『木工の道に進むなら山に木を植えてみなさい』といわれて実際に山で修行してきたのですけど、誰でもできることではないでしょう。それでも多くの人に知ってもらいたいし、僕自身山林とのつながりを深めたいと考えていたときに、THINNINGに参加させてもらえることになりました。いい機会をいただいたと思っています」

 

 

■ひとつの点に過ぎなくても、連動すれば大きな発信力になる

 

──これまで5回開催されてきましたが、規模感や内容はどのように変わりましたか?

 

「開催内容は基本的に変わっていません。来場者も急に何万人に増えたというようなことはなく、ジワジワ増えている感じですね。ただよくお客さんからいわれるのが、滞在時間がめちゃくちゃ長いということ。たくさん出店ブースがあるので、じっくり見て回ろうとするとほぼ丸一日かかっちゃうくらいなんです。

 

また、会場内にはちょっとしたコーヒーとスイーツ、焼き菓子があるくらいで、昼食を取るには近隣の飲食店に足を運ぶ必要があるのも特徴のひとつ。出店者だけが儲かるイベントのように見えてしまえば、地域から受け入れてもらえないと考えまして。周辺の飲食マップを作成している団体にお声かけしまして、イベントでそのマップを配布し、近隣で昼食をとってもらえるような流れを作りました。長く続けていくためには大事なことだと思っています」

 

──儲けが第一の目的ではないから、ですね。

 

「そうですね。山林の問題を伝えることが目的ですから。その軸に沿ったやり方を貫いたほうが、絶対共感をもらえるだろうと思っています」

 

神武「出店者の中にも僕らの考えに共鳴してくれて、使用する器材を間伐材に置き換えた方もいらっしゃいました。そうした動きが自然発生的に広がるのも、すごくうれしいことでしたね」

 

 

 

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Credit
Photo_Kozi Hayakawa
Text_Hiroyuki Yokoyama