──2019年には博多阪急で開催されたりと、活動の幅も広がっているように思えます。
林「地元の糸島から発信をしていますけど、そこにこだわるつもりはないんです。なぜなら、この山林の問題は糸島だけに限らず日本全国共通のものだから。イベントの名称に『糸島』をつけなかったのも、そうした理由です。だからTHINNINGはどこで開催してもいいし、糸島と無関係の人が出店されてもかまいません。純粋に力を貸してくれる人と、一緒に成長していきたいんです」
──では今後も、さまざまな土地でTHINNINGを楽しめるチャンスがあると。
林「もちろん僕らの活動には限界がありますし、また無理に広げていくつもりはありません。それに、山林や自然、木々を大切にしていこうという、僕らに近い理念をお持ちの団体はすでに各地に存在しているんですよね。それぞれの活動が点であっても、数多くの点がつながっていったら大きな発信力につながるじゃないですか。それぞれで活動すればいいんです」
──自分たちでできることを、無理に背伸びすることなく続けていこうということですね。
林「続けることが大切ですから。組織が大きくなりすぎると、フットワークも悪くなるので。同じ理念があっても、やり方はそれぞれでいいんです。僕らも他団体との連携を強めて、勉強させてもらっています。たとえば大分の日田で活動されている『ヤブクグリ』さんは、画家の牧野伊三夫さんが中心となって作られた団体なんですが、プロデューサー、デザイナー、広告代理店、雑誌編集者など、各業界で活躍されている方々が集まっているビックリな集団です。
日田の杉を曲げわっぱ風に使った『日田きこりめし弁当』でも知られていますね。デザインやメディアを使って、木のこと、山のこと、暮らしのことを発信されています。また、九州にはグッデイという大型のホームセンターがあるのですが、本社の方々から関心を示していただき、何か一緒に取り組めることを考えていきましょう!と嬉しいお声かけをいただきました。活動を続けることで、さまざまなつながりが生まれています。」
──活動の輪が広がっていっているんですね。
林「神武君がデザインしてくれた間伐材のテントも、レンタルをスタートしてみたところ『森、道、市場』という愛知の音楽フェスから興味を示してもらい、THINNINGでブースを出展させてもらいましたね。僕と薦田さんで、カーフェリーにテントを13台乗せて向かったのを忘れられません。梅田阪急のイベントで使いたいと有名な料理家さんから依頼を受けたり、福岡の文具屋さんからアメリカで使いたいと言われて初めて海を渡ったり、最近はそういう問い合わせも増えてきました」
──これまで表面化していなかっただけで、間伐材の利用に前向きな人たちはたくさんいらっしゃったのだと。
林「ほんとうにそうですね。この間は、北海道にある東川町のイベント実行委員のみなさんからお招きを受け、北海道でTHINNINGをやってきました。東川町は子供教育にも力を入れており、糸島に似て移住者が増えている町なんです。水は大雪山の地下水で水道代はタダ。自然の恩恵の中で暮らしているみなさんにとって、地元の山や森にもっと向き合っていこうという想いを感じました。こういう出会いを大事にして、今後また一緒に活動できるときを楽しみにしています」
■人が地方に散らばれば新たな循環がはじまる
──間伐材を利用した山林の循環活用を目指されているように、めぐりわでもサーキュラーバイオエコノミー、循環型経済やサスティナブルな取り組みに注目しています。そうした動きについて、どうお考えですか?
林「SDGsもサスティナブルも、最近はメディアにも取り上げられるようになってきましたが、そうしたマインドをお持ちの方はずっと前からいらっしゃっていると思うんですよね。世捨て人的な、ヒッピー的な感じに寄せすぎると受け入れがたいムードになってしまうから、いろいろな人たちに共感してもらえるプラットフォームの必要性を感じていました。こうした言葉が生まれ、明確な共通意識をもてるようになったのは大きな前進だと思います。
これまで話してきたとおり、やっぱりみんなに関わることなので。自然って、『じゃあ、あとはよろしく』とはいかないじゃないですか。下手をしたら、全地球人がどこか別の星に引っ越さなきゃいけなくなるレベルの話ですから。SDGsやサスティナブルを標榜する企業が増えてきて、ようやくここまで来たなという感じがしています。今後はもっと進んで、『こうした意識も持っていないと恥ずかしい』というくらいになれば、もっと世の中が変わるでしょうね」
──2020年には新型コロナウィルスという問題が発生し、循環すべき経済活動にも大きな影響がありました。これがなにかの転機になりますかね?
林「コロナ禍によって大きな企業ほどリモートワークが推進され、糸島も都市部から返ってきた人が増えました。『もう都市部には戻りたくなくなった』『仕事できるなら、この土地に住み続けたい』という声もたくさん聞いています。東京は刺激的で楽しいです。でも、人も店も増え過ぎたと思うんです。これが本当に自分のためや土地のためになっているのか、そうした疑問を改めて浮かび上がらせたんじゃないでしょうか。東京は必要です。
でも東京だけで無理に競争するよりも、地方にいながら足りてないものを提案して、全国のクオリティを上げていくほうが企業にとってもメリットがあるんじゃないかと考えています。これまで東京で活躍してきた能力のある方々が地方に散らばることで、新たな循環がはじまるのかなと想像を膨らませています」
──コロナ禍でまだ先が見通せない状況ですが、今後の展望をお聞かせください。
林「新たな出会いにつながる話は積極的に受け入れて、これからも僕らの存在を発信し続けていきたいと思っています。現在でも、僕らの想いがさまざまな人や場所に確実に届き始めているのを肌で感じています。これまでのような集客イベントを再びできるのか、まだわかりませんが、今はやれる規模で、やれる場所で、精一杯活動していきたい。いつかは、同じような理念を持つ団体が年に1回くらいジャンボリー的に集結してみても面白いだろうなって思っています。
坂本龍一さんが『モア・トゥリーズ』という団体を作っていて、僕らとは規模感がまるで違いますけど、そうしたところともうまくつながることができれば。そんな感じで、最終的にはもっと多くの人たちの興味を引くことをやれたらおもしろいなと思っています。誰がリーダーシップをとってくれてもいいので。僕らは糸島にいながら、ここでやれることを日々発信していければと思っています」
林博之さん
1974年千葉県出身。東京のアウトドア系輸入商社を退職後、福岡県糸島市に移住。アウトドア製品等の営業代行(卸業)を主軸にしながら、2017年に自身の店GOOD DAILY HUNTをオープン。2017年より、「THINNING」をスタートさせる。Instagram : コチラより
薦田雄一さん
1970年、福岡県糸島市生まれ。キコリの次男として生まれる。糸島高校を卒業後、紆余曲折ありながら木工の世界に辿り着く。2010年に屋号「木工房 moqu c0mo」を掲げ、木工品を製作・販売。糸島の各種イベントにも携わる。Instagram : コチラより
北古賀昭郎さん
1967年、佐賀県伊万里市生まれ。九州産業大学卒業、生活雑貨業界などに勤めた後、2008年にオリジナル雑貨全般を企画・製造・販売するKREISを開業。イタリアンジェラートの販売を行うLoiterMarketも手掛ける。INSTAGRAM :コチラより
石橋整さん
1986年生まれ。九州造形短期大学でデザインを専攻。各種業界でグラフィックデザインやWEBデザインなどに従事。2016年にSTB STUDIOとして独立し、フリーランスでグラフィックデザインやWEBデザイン、その他印刷物の作成等を中心に活動。Instagram :コチラより
神武豊さん
1979年、福岡県糸島市生まれ。インテリアデザインの専門学校を卒業後、家具と内部工事の家業に就く。2005年頃に木工ブランド「アコーデオン」(現スリークラウド)を設立し、住宅や店舗の設計から工事までを一貫して行う。Instagram : コチラより
酒井航さん
九州産業大学工学部建築学科卒。卒業後、岐阜県飛騨高山市、森林たくみ塾にて家具作りの基礎や精神を学ぶ。その後、信州の家具作家・谷進一郎氏に師事。2011年より家具や小物等の制作・販売を行うDOUBLE=DOUBLE FURNITUREを開設。Instagram : コチラより
THINNING

Writer(ライター) / Hiroyuki Yokoyama
横山博之
2000年に日本大学芸術学部文芸学科を卒業後、フリーランスのライターとして活動を開始。カバン、時計、ファッションと男のライフスタイルを彩るモノに詳しく、デザイナーや職人などモノづくりに関わるキーパーソンへのインタビューも豊富にこなす。時代を塗り替えるイノベーティブなテクノロジーやカルチャーにも目を向けている。
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