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「東京の村で見つけた本当のクリエイティブと理想の循環社会」||清田直博 / 檜原村新農業組合

2022.09.09|コラム

東京に本州唯一の村「檜原村」があるのはご存知だろうか? 新型コロナウイルスの影響で都市と地方の関係が見直されている今、都市部からのアクセスもいいことから注目を浴びている地域だ。

青山の国連大学前で行われる「ファーマーズマーケット」やメディアの編集などを手がけていた清田直博さんは、その檜原村へ移住した。土との関わりを深めながらも都市部の仕事も継続する清田さんに、「都市と地方、両方の視点」について話を伺った。

 

Profile
清田直博

清田直博

福岡県生まれ。ライター、エディター、デザインディレクターとしてクリエイティブの現場で経験を積む。ファーマーズマーケットの運営に関わるなかで農業に興味を持ち、3.11後は東北の農家で復興支援活動を5年。後に多摩川を遡って檜原村(東京都)に移住、村と都心で働く二拠点スタイルを実践中。

URL (STRAW・TOKYO ) :  https://www.straw.tokyo/

 

プラスチックを代替する"麦わらストロー"が持つ魅力

檜原村は、都心から小一時間クルマを走らせるだけで到着する、東京唯一の小さな村。清田直博さんの元へ伺ったのは、2020年6月上旬のこと。梅雨入り前に、育成したライ麦を収穫してしまおうというタイミングだった。

村役場で清田さんと落ち合い、ライ麦畑へと向かう。急峻な山坂を上がった先に、たくさんの穂を実らせたライ麦が風にそよいでいた。

──立派に育っていますね。

 

「本当はもう少し待ちたかったんですけどね。今を逃すと梅雨で収穫しにくくなるし、カビが生えやすくなってしまいますから」

 

──それでも大人の背の高さ以上に伸びて、立派に見えます。それにしても、けっこう急勾配な場所なんですね。

「檜原村は9割以上が山林で占められた自然豊かな土地なのですが、農地のほとんどがこうした傾斜地なんですよ。区画が小さく、機械も入れにくいから農作物を大規模に作れなくて。水田が作れない代わりに、昔はこうした麦類をよく栽培していたようです」

「僕らは今、ライ麦や大麦を栽培していますけど、みなさんジャガイモだったりお茶だったりと、好きな農作物を自由に育てていますね。生業として農業をやっている方は片手で数えるくらいで、家族で消費したり身近なコミュニティ内で流通させたりする程度の量を作られているようです」

そう話しながら、手にした鎌でライ麦を刈り取っていく清田さん。そのかたわらで農作業仲間の松岡賢二さんが紐を用意し、ライ麦をまとめていく。清田さんがライ麦を栽培しているのは、食用のためではない。求めたのは実ではなく、茎のほう。麦の穂を取った後の麦稈(ばっかん)は中空構造になっていて、天然のストローとして活用できる。

 

1本のライ麦から取れるストローは、4~5本。加工の歩留まりを考慮すれば、1反につき約30~40万本取れる計算になる。販売価格は1本30円なので、単純に1反あたり約900~1200万円の売り上げが見込めるそうだ。

 

──大きなビジネスではありませんか?

 

「予想通りにいったのなら、ね。2018年秋からはじめたばかりで、試行錯誤の連続ですよ。春蒔きを試したら雑草に負けたり、シカに食われたり、加熱処理の不足でカビが生えたり……」

「裁断やアルコール洗浄といった加工は村のおじいちゃんおばあちゃんにお願いしていますが、その加工賃の支払いもしなければなりません。"おいしいビジネス"では全然ないんですよ。こちらに引っ越して、休耕地が増え続けていく現状に歯止めをかけたい想いから、麦わらストローの生産に挑戦したんです」

──今回はじめて麦わらストローを使ってみましたが、水分を含んでも強度が確かでまったく問題ないんですね。唇が触れたときには、自然の優しさや素朴さも感じて。

 

「そこは多くの方から好感触を得ています。石油製のプラスチックストローと違い、使い終わればすぐに土にも還りますしね」

 

──2019年2月、900件以上の応募があった東京都主催の「プラスチックストローに代わるアイデア募集」では優秀賞に輝いたそうですね。

 

「ええ。このプロジェクトをはじめたばかりでしたから、後押ししていただけて嬉しかったですね。ただ、麦わらストローの良さや特徴はまだ全然広まっていません。今は地元の農作物直売所であったり、応援していただいている一部の飲食店や施設など、身近なところから少しずつ販路を広げている段階です」

──大手カフェチェーンがプラスチック製ストローの利用を廃止しましたし、清田さんが目指しているのと同じ方向に世の中が向かっているように思いましたが。

 

「関心を示してくれる方はたくさんいるんですよ。ただ問題は山積みで、『なんやかんやで採用まで至らず』という例が多いですね。たとえば品質管理。麦わらストローは自然素材なので、保管がずさんだと傷んで使えなくなってしまうんです」

 

「純粋に1本30円という販売コストをネックと感じる企業もあるでしょう。企業や社会の理解がさらに深まる必要性があるかもしれませんし、僕らも麦わらストローの魅力や管理方法を積極的に伝える仕組みを持たなくてはいけないと痛感しています。今販売できているところからのフィードバックをもらって、少しずつアップデートしていきますよ」

 

──やるべきことは、まだたくさんあるという感じですか。

 

「本当に。安定供給もさせなければなりませんし。ビジネスとしては、これからです」

 

その日は1反の2/3ほどのライ麦を刈り取り、近くの干し場で吊し上げた。今は青々している麦稈も、これから2カ月ほどの天日干しを経て、黄金色へと変わっていく。

 

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Credit
Photo_MURAKEN
Text_Hiroyuki Yokoyama