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「東京の村で見つけた本当のクリエイティブと理想の循環社会」||清田直博 / 檜原村新農業組合

2022.09.09|コラム

 

 

本当にクリエイティブをやりたいのなら、地方移住はチャンス

用意していただいた冷茶で喉を潤しながら、話を深めていく。近隣に住むおばちゃんが製造した"檜原紅茶"だそうで、スッキリとした香味が鼻腔を抜けていった。舌先からは、麦わらストローの強健な繊維質が伝わってくる。

 

──東京都心と檜原村、二拠点スタイルを実践されているわけですが、東京で培った能力を村でも活かせるか、不安はありませんでした?

 

「それはありませんでしたし、むしろ活かせると思っていましたよ。なにか都心で『新しいイベントをやります』『新しい場所を作ります』といっても飽和状態だし、インパクトがないですよね。もう、みんな似たようなことをやっていて。それなら、誰もいないところで行動を起こしたほうが絶対いいし、求められてもいるんじゃないかと確信していました」

──実際に行動を起こしてみて、その予想通りだった?

 

「はい。だって、プレイヤーがいないんで。みんなも、もっと地方へ行ったほうが活躍できそうな気がします。収入は減るかもしれないけど、物価が違うから出費も減りますしね」

 

──クリエイターにとって、拠点移転はチャンスだと。

 

「本当にクリエイティブなことをやりたいのなら。今の業界は、身内のコミュニティで仕事を回し合っているような部分もある気がしています。本当に新しいことを一からやるなら、新しい拠点ではじめたほうがいいように思いますね」

 

──拠点を変えることで、これまでと異なる視点も持てるんですね。

 

「こういうところにくると、トレンドとか関係ないですからね。より本質的な部分に目を向けられる。やはりトレンドの発信地にいれば、それに流されてしまいますから。トレンドを知ること自体、間違いではないですけど」

「今、いろいろな地方で特産品開発やブランディングを進めていますけど、ビジュアルもパッケージデザインも都心を拠点とするクリエイターが制作に携わることで、どれも似通ったものになってしまっているじゃないですか。本当に深いところまで考え抜いて、その地域の本質に根ざしたクリエイティブをできているのか疑問です。ただ地方に都心のスタイルを押し付けるだけじゃ、つまらないですよ」

 

──もう、実際に住んでしまえと。

 

「それが一番ではありますね」

 

──清田さん自身、拠点を移したことで変化を感じますか?

 

「変わったと思いますよ。一緒にやってきた仕事仲間からは『丸くなったね』っていわれるようになりました。モノの考え方が変わってきたのかもしれません」

 

──たとえば、どういうふうに?

 

「純粋に、モノを大切にするようになりました。『エシカルなモノだけを身につける』ほどストイックではありませんが、自分が気に入って、さらに長く使えるモノだけを買うようになりました。新しいファッションも、消費するのは情報だけ。SNSのタイムラインで『○○から新作シューズが出たんだ』って知って、『へぇ、そうなんだ』と満足して終わることが増えました」

 

「実際手に入れてもすぐ飽きちゃうだろうし、今のライフスタイルに合わないので。といっても、物欲がゼロになったわけでなく、都心で求められているニーズにキャッチアップできていないわけでもないと思っていますけどね」

──トレンドに対する姿勢が変わったということですね。

 

「そうですね。トレンドにどっぷり浸かることはなくなったけど、完全に背を向けることもなく、ほどよい距離感を保ってやっていきたいですね」

 

 

"生活の場"に"生産の場"を広げていく

家の軒先で話していると、奥様がクラッカーディップを用意してくれた。自家栽培したルバーブと呼ばれるタデ科の野菜のジャムが乗せてあり、やさしい甘みと少しの酸味が口内に広がった。

──モノを大切にするという清田さんの姿勢は、昨今注目が高まっている循環型共生経済、バイオサーキュラー・エコノミーであったり、世界各国が取り組んでいるSDGs(持続可能な開発目標)の方向性と同じように思えます。そうした動きについて、どうお感じですか?

 

「その文脈で言えば、まずは地産地消できる仕組みを作り上げていくのが今の僕に課せられた仕事だと思っています。麦わらストローもその一環です。村役場に籍を置く身として、もっと多角的な取り組みを実施していきたいですね。村には、飲食店なんかもまだまだ少ないですから」

 

──地元で経済を回していける力を養っていくと。

 

「はい。村で飲食店をやっている仲間も多いので、メニュー作りや集客方法などの提案やお手伝いをすることもあります。観光客だけでなく、地元の人たちにも愛される店になるといいですよね」

「一過性のブームを生んで大勢の観光客を招いても、村全体で受け入れ能力がないですからね。無理やり体制を整えても、波が去ったら徒労に終わってしまいます。もちろん、観光に訪れてもらえる体制づくりはとても大切で、それがなければ衰退していくだけなんですけどね。でも、まずは地元のために」

 

──地域に根ざすことが、循環型経済の基盤ですね。

 

「また、今後は『生活の場』に『生産の場』をもっと介入すべきだと考えています」

 

──その『生産』とは、どのような?

 

「書斎で制作作業を行ったり、庭の畑で野菜を自家栽培したり。コロナ禍でリモートワークが増え、家で仕事できるスペースを欲した人も多いですよね? そうした、創造的な活動の場を自宅内に設けられると、社会に対する見方が変わってくると思うんですよ。スペースにゆとりが必要なので、都心から離れなければなりませんが、そうしてもまったく問題ないことは僕が経験しました。どうにかなるんです。『居住するための費用』と捉えがちな家賃も、生産設備を兼ね備えられれば『価値を生み出すための投資』という認識に変わるはずです」

 

──確かに、投資ですね。都心から離れることの合理性も感じます。

 

「やはり中心から離れたほうが、選択肢は広がるんですよ」

 

 

 

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Credit
Photo_MURAKEN
Text_Hiroyuki Yokoyama