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「東京の村で見つけた本当のクリエイティブと理想の循環社会」||清田直博 / 檜原村新農業組合

2022.09.09|コラム

 

 

東京都の村だからこそ秘められた高い可能性

日も暮れ始めてきた。眼前に迫る山の尾根に、焼けた夕日が差し掛かる。戸倉三山や奥多摩山域を一望できる雄大な景色を目にしていると、ここが東京都である事実を忘れてしまう。

 

──都心からのアクセスもいい檜原村は、最良の選択肢のひとつだったわけですね。

 

「はい。いいところですよ。自然は豊かですし、村に診療所もあるし、隣町には大きなショッピングモールもあります。アマゾンで注文した荷物もすぐに来ますしね。不便さは感じません。村にはない映画館や美術館については、都心がいいですけどね。大勢が集まる都心は『出会いの場』としての価値がきっと一番で、ある程度落ち着いたら、そこから離れてもいいんだと思います」

「それにバイオサーキュラー・エコノミーな取り組みとしては、都内初の民間小水力発電所の開設やバイオマスの推進など、再生エネルギーの活用にも積極的です。薪も安く手に入るので、村役場は薪ストーブの普及にも力を入れているんですよ。それに、子育て支援のさまざまな制度も充実しています。子供が少ないので、村全体で大切にされている実感がありますね。子供は未来ですから」

──素敵です。

 

「小さな村ですが、東京都であることも大きいんです。他県に比べ都の税収は高く、檜原村には村内の税収を遥かに上回る都の支出金が入ってきています。さらに国からの地方交付税なども合わせると、令和2年度の一般会計歳入歳出予算は37億3700万円に上ります。人口約2200人の村としては、予算がそこまでシビアじゃないんですよ」

 

──高いポテンシャルを秘めていると。

 

「下げ止まらない人口減という大きな課題はありますけどね。それでも多少は、僕のように外から来る人もいます。今日、ライ麦の収穫を一緒にやった松岡さんもそうで、農業体験のエコツアーもやっています。他にもわさび菜栽培ツアーやサイクリングツアーなどさまざまなエコツーリズムがあって、ガイド同士のつながりもできているんです」

 

──やはり人が増えると、できることも多くなる。

 

「個人的にも、もっと多くの友達をここに呼びたいという気持ちでいるんです。ただ一方で、なかなか空き家が見つかりにくいのと、あまり知らない人を受け入れたくないと考える村民が少なくないという問題もあります」

 

──それは、おいそれとは解決しませんね。

 

「少しずつ解決していければと思っています」

 

 

 

都市と、村のあいだで

日がとっぷりと暮れてきた。頭上には都心では見られないほど漆黒に染まった夜空と、宝石箱を解き放ったような星々が浮かんでいる。

清田さんの手には、焼酎の猪口が握られていた。一日の終りに、クイッとやるのが最近の習慣だという。じゃがいも焼酎を醸造できる蔵が近々村内に建てられるそうで、新しい焼酎の誕生も楽しみにしている。

 

──これから、この檜原村でどのような活動を考えていますか?

 

「そうですね。僕、ちょっとした団体を作ろうと思っていて。地方と都市の循環をテーマにしたいと考えているんです」

 

──そこでも"循環"がカギに。

 

「はい。それで、川がひとつの象徴になるんじゃないかと。都市が川の下流の平野部にできるのに対し、地方は川の上流の山間部にできることが多いのですが、双方をうまく行き来させたい。アユなどの川魚は青春時代を山の上流で過ごし、大人になって産卵するときは海に近い下流に行きますし、逆にシャケやマスは大人になって川を遡上します。ある意味、魚も循環しているんだと思うんですよ」

 

──たしかに。

 

「人も、同じような循環を目指せるんじゃないですかね? 村の若者が流出しないよう必死に引き止めるのではなく、都会へ送り出して視野を広げてもらい、いずれは村に帰ってもらう。そのためにも、都会で得たスキルや知恵を存分に活かせる環境を用意する必要があるでしょう。逆に都会で育った人も、地方に移り住めばたくさんの発見を得られますし」

 

──そうして都心と地方の循環が進むと、どう変わっていくと思われますか?

 

「意識が大きく変わるんじゃないですかね。自然に触れる時間が増えると、今言われているSDGsなんかも、もっと違う感覚で捉えられるんだろうし、消費に対する考えも変わってくるだろうと思いますよ。都心のビルの中から問題を叫んでばかりいても、頭でっかちになってしまいますから。本当の自然を見ないと、ね。そのためにも、檜原村をもっと魅力的な場所にしていきたいと思っています。僕自身のためにも、都会や地方で暮らす人々のためにも」

 

都心と地方の二拠点居住という循環生活に、日本が目指すべきひとつの未来を見た清田さん。可能性にあふれた檜原村で、そのクリエイティビティを存分に発揮していく。

 

 

 

 

 

Profile
Writer(ライター) / Hiroyuki Yokoyama

Writer(ライター) / Hiroyuki Yokoyama

横山博之
2000年に日本大学芸術学部文芸学科を卒業後、フリーランスのライターとして活動を開始。カバン、時計、ファッションと男のライフスタイルを彩るモノに詳しく、デザイナーや職人などモノづくりに関わるキーパーソンへのインタビューも豊富にこなす。時代を塗り替えるイノベーティブなテクノロジーやカルチャーにも目を向けている。

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Credit
Photo_MURAKEN
Text_Hiroyuki Yokoyama