[THINNING] =間引き。林業においては、「間伐」を意味するこの言葉。
福岡県糸島市で行われている、間伐材の活用や山林の問題を伝えるマーケット型イベントの名前でもあります。
なぜ、間伐材なのか?理想的な循環型社会を目指す上で、間伐材の活用にはどのような意味があるのか?
イベントを主催するTHINNINGメンバーの林博之さん、薦田雄一さん、北古賀昭郎さん、石橋整さん、神武豊さん、酒井航さんの6名にお話を伺いました。

THINNING
福岡県の糸島からはじまった、楽しいMARKETの場を提供し、山の問題を多くの人に知ってもらうためのイベント。Thinning=間伐(かんばつ)は適切に木を伐り倒すことで、暗い森の地面に陽の光を届け、健全な森を取り戻すための作業。楽しいを通して、日本全国で放置された荒廃林を手入れする“きっかけ”を作り、誰もがアクションできる場を提供している。
■地元に恩を返したいという想いからはじまった
2020年10月。THINNINGのメンバー6名が集まったのは、丸田池の河畔にあるアウトドアショップ「GOOD DAILY HUNT」。プロジェクトリーダーの林博之さんが経営するお店で、みなにとってはアジト的存在とのこと。間伐材でログハウスの一部を再現したという店内は居心地がよく、インタビューは終始和やかな雰囲気の中で行われました。
──いきなりですが、なにがきっかけだったんですか?
林「もともと僕は8年前、震災をきっかけに千葉から糸島に引っ越してきました。家族で楽しく暮らしているうち、自分のビジネス以外でもこの土地に恩返しできないかという想いが募るようになったんです。営利目的だけじゃなく、地元に還元できるイベントができないかと……。このメンバーは糸島の作家作品をセレクトした店『糸島くらし×ここのき』の常連だったことからつながった仲間なんですけど、僕の想いをみんなに伝えているうちに、間伐材をテーマにしたTHINNINGの動きが加速していったんです」
林さんは、世界中の優れたアウトドア・キャンプ用品の輸入販売を行っているエイアンドエフの営業マンとして、15年ほど活躍。その仕事柄、常に自然環境を意識してきたといいます。糸島でオープンした「GOOD DAILY HUNT」でも厳選したアウトドアグッズを販売しつつ、糸島杉の間伐材で作った文字のプロダクト「KINO5108」(キノコトバ)を製造・販売したりと、ただの卸売業に留まらない活動を行っています。
──間伐材に目をつけたのは?
林「実は糸島では、『木の駅 伊都山燦(いとさんさん)』という、全国の自治体でも珍しい独自の貯木場が2013年にできました。山を手入れして出た間伐材を市が買い取り、次の買い手につなげる場として。ただ、間伐材の量に対して買い手の需要が追いついていないのが実情です。
せっかく循環する仕組みができても、買い手が見つからなければ間伐材の処理を促せなくなってしまう。そこで僕も買い手の一人になろうと考え、その『KINO5108』を作りました。貯木場で間伐材を仕入れ、地元の製材所で加工してもらって。
自分のお店で販売するだけでなく、お付き合いしている雑貨屋さんなどにも営業して回って、少しでも間伐材の消費につなげられればと……小さなサイクルですけど。そんな取り組みをみんなに知ってもらったことが、THINNINGの方向性を決めるひとつのきっかけになりました」
2017年10月、糸島市前原にある丸田池公園で初回イベントの開催を実現。その後は4月と10月の年2回で、定期的に開催してきました。第6回を迎えるはずだった2020年4月以降は新型コロナウイルスの影響で中止になりましたが、近年は百貨店や大型書店などで不定期に開催する機会も増えています。
■日本の山林が荒廃し続けている
林さんたちを突き動かしたのは、「今、山が大変だ」という事実を伝えたい想いでした。
──もともと山の問題に関心が強かったんですか?
林「いや、よく知らずに過ごしてきたんですよ。でもこの土地で仕事をするうちに、問題意識が芽生えるようになりました。今、山の手入れが行き届かなくて、大変な状況になっているんです。プランクトンや海草が必要とする栄養が海へ流れないと漁獲量が減ってしまいますし、各地で山林の土砂災害が多発しているのだってそう。山の問題は回り回って、僕らが食べるものや暮らしに直結する。
この事実を知ってしまったからには、何もせずにはいられなくなったんです。この事実を、みなさんにもきちんと伝えたい。家のデッキを作る際、これまではホームセンターで安い輸入材を買ってくることになんの躊躇もなかったかもしれませんけど、日本の山の現状を知れば、少し値段が高くても国産材を選んだほうが身近な自然を守ることにつながることがわかるはずなんです。
だから、まずは知ってもらうこと。そうすれば間伐材活用の大切さがわかるし、山ではゴミを捨てない、見つけたら拾って持ち帰るとか、そういう行動にもつながっていくんじゃないかと。そして、その価値観を子供達に伝えていかなければいけないと思うんです」
日本は国土の約67%が森林という、世界有数の森林国。また、標高100m以上の丘陵地・山地は約72.8%を占めており、森林のほとんどは山間部に存在しています。その森林のうち約41%はスギやヒノキの人工林。植栽した苗木が健やかに育つよう下層部に生える雑草や雑木を除去する「下草刈り」や、密集しないよう成長途中で間引く「間伐」など、人の手による管理が欠かせません。しかし、1980年をピークに下落する木材価格、少子高齢化と人口減少による木材需要の低下、林業従事者の減少、林所有者の世代交代や不在村化などによって、管理が行き届かない森林が増えています。
──問題が山積みですね。
薦田「やはり後継者不足が一番の問題です。人間のテクノロジーてすごくて、1万ヘクタールの人工林を2~3年で禿山にしてしまうくらいの技術はあるんです。しかし、木を育てるための人口が少ないんですよ。」
そう話す薦田雄一さんは、THINNINGメンバー随一の“山の専門家”。糸島の山のキコリとして生まれ、子供の頃は「嫌で嫌でしかたなかった」ものの、「自分のルーツは山にあるとわかった」ことで、現在は木工作家をやりながら林業にも従事しています。
薦田「今、農業を主に従事する人は日本の人口の約0.016%ですが、林業従事者はさらにその1/50の0.00035%くらい。糸島の人口は約10万人なのですが、市の約47%を占める森林を管理する林業従事者はたった100人前後なんですね。
しかも後継者が不足しているし、里山は過疎化が進んでいるし……特効薬はないのですが、やっぱりそこで暮らしている若者があとを継いでいく流れを作らないと自然がおかしくなって、よりよい暮らしができなくなるんじゃないかと恐れています」
現在の林業はビジネスになりづらく、国と県の補助金による支援の存在が大きいという話も、薦田さんは教えてくれました。福岡県をはじめとする複数の地方自治体では森林環境税も徴収され、荒廃森林の整備に活用されているとも。
薦田「国や地方の税金が使われているという意味でも、山は都市部に住む人たちを含めたみんなの問題でもあります。だから、みんなに荒れ果ててしまった山の実情を知ってもらいたいんです。山からの恩恵は、全部につながっている話なので。そのためにもまず知ってもらうこと。THINNINGがそのきっかけになればいいと思っています」