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「サーキュラー・バイオエコノミーって何ですか?」|| 藤島義之/新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

2022.09.07|コラム

欧州を中心に広がる「サーキュラー・バイオエコノミー」という経済が、持続可能な開発目標(SDGs)を達成する手段として今注目されています。現代の資本主義経済が行き詰まりを見せる中、私たちはこの経済から何を学ぶことができるでしょうか?

海外のカンファレンスにも参加し「バイオエコノミー」「サーキュラーエコノミー」の前線で世界の潮流を追っている、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の藤島義之さんにお話を伺ってきました。

 

Profile
藤島義之/新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

藤島義之/新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

技術戦略センター・バイオエコノミーユニットにも所属。前職のバイオ関連業界団体に3年間勤務時代から世界のバイオエコノミーの政策、技術トレンドを追い、世界と日本のバイオ・サーキュラーエコノミーを考える。関心の高い分野は、バイオテクノロジー、エネルギー、高分子材料、食品など。

 

地球温暖化を抑え、生物圏に負荷をかけない経済活動「バイオエコノミー」とは?

 

──このたびは、お忙しいところありがとうございます。早速ですが、まだ聞き馴染みのない「バイオエコノミー」について、教えていただけますか?

「『化石資源由来経済(社会)をバイオ由来に変えていくこと、さらにはそのツールとしてバイオテクノロジーを利用して経済活動を行うこと』と言い表せると思います」

 

──化石資源をバイオ由来に変えようという動きは、いつ頃からはじまったのでしょうか?

「きっかけは1970年代に起こった『オイルショック(※1)』だと推察します。石油は、今でも産業や社会を支えるエネルギーの中心。しかし、このオイルショックによって『もし石油が安定供給されなくなったら?』という不安が募ったことから、化石資源社会からの代替が模索されるようになったのです」

 

──なるほどです。具体的には、どのような動きを?

「たとえば1992年に開催された『地球サミット(※2)』では、大気中の温室効果ガス濃度を安定化させて地球温暖化による悪影響を防止する『気候変動枠組条約』と、地球規模の広がりで生物多様性を考え保全を目指す『生物多様性保全条約』が定められました。化石資源社会からの代替という目的に、温暖化防止という新たな理由が加わりました」

 

 

──地球温暖化も生物多様性も、今日で重要視されているテーマですね。

「はい。さらには国連主催の1997年に開催された『COP3』では京都議定書(※3)が、2015年開催の『COP21』ではパリ協定(※4)が定められ、世界各国に温室効果ガスの排出削減義務が課されました。同2015年の国連サミットで採択された『SDGs(※5)』の中にも、『エネルギーをみんなに、そしてクリーンに』『気候変動に具体的な対策を』など、エネルギーや環境が果たすべき新たな課題が盛り込まれています」

 

──昨年の「COP25」では、「日本は温暖化対策に後ろ向きだ」として環境NGOから「化石賞」を贈られていましたね。世界全体では、1970年からはじまり、ここ50年で環境へのアクションを積み重ねていったと。

「はい。そうした変化の中で、バイオエコノミーという言葉が生まれたんです。私の調べたところでは、2005年9月に行われた知識を基盤としたバイオベースエコノミーのステークホルダー会議にて、EUの科学技術担当コミッショナーが提唱した『知識を基盤としたバイオベースエコノミー』がきっかけだったと思います。当時は『バイオベースエコノミー』とも呼ばれていましたが、2009年にOECDが発表した政策提言書に『バイオエコノミー to 2030』と書かれたことから、呼名が定着していきました」

 

──バイオエコノミーが目指す中身はどういったものですか?

「冒頭にお話したように、石油や石炭、天然ガスといった化石燃料の代わりに生物資源、いわゆるバイオマス(※6)やバイオテクノロジーを活用しようというものです。現在、化石燃料のおよそ9割を費やしているのが、エネルギー産業。バイオ燃料の他、太陽光や風力など再生可能エネルギーの割合も高めていくことが求められています。また、エネルギー産業の次にくるのが繊維・衣料産業といわれています。トレンドに追従し、毎シーズンのように大量の廃棄物が出てしまうビジネスモデルに批判が高まっています」

 

 


一方的な消費活動を超え、循環型の経済を目指す「サーキュラーエコノミー」

 

──ありがとうございます。もうひとつ、サーキュラーエコノミーについても教えてください。

「その言葉からイメージされるように、『一方向ではなく循環させる形での経済』という考えです。今日、世界で広まっているサーキュラーエコノミーは、主として欧州が語る循環経済のことを差しています。もともと1960年代頃からあったようで、『環境改善』『資源循環』『廃棄物付加価値化』との名で議論されていました。ところが近年、『ダボス会議(※7)』にてエレンマッカーサー財団がサーキュラーエコノミーの名を何度も取り上げたことから、この言葉が定着しました」

 

──日本でいうところの「循環型社会」が近い?

「そうですね。リデュース・リユース・リサイクルの『3R(※8)』をご存じの方も多いと思います。ただサーキュラーエコノミー=3Rではなく、欧州が主導するもっと広範囲な経済活動や取り組みを意味しています」

 

──なぜ、世界は循環経済を求めるようになったのでしょうか?

「大きな発展を遂げてきた欧州ですが、土壌を痛めつけて樹木も生えない丘陵が増えたりと、環境や資源に過大な負荷を掛けてきた歴史があります。ダメージを積み上げる一方的な消費活動ではなく、資源を循環して活用できる仕組みを求めるようになったのです。こうした希望は、経済の発展とともに環境問題が顕在化しはじめた途上国でも納得する部分が多く、世界全体で目指すべき目標へと変わりました」

 

 

2つが融合した「サーキュラー・バイオエコノミー」という新しい考え方

 

──それらが融合して「サーキュラー・バイオエコノミー」になったという認識でいいのでしょうか?

「もともとバイオエコノミーもサーキュラーエコノミーも曖昧さが残る言葉で、オーバーラップする部分も少なくありません。そこで2018年頃から両者を融合する動きが増え、生まれたのがサーキュラー・バイオエコノミーという名称です。定義してみると、『バイオ由来の資源やバイオテクノロジーによって資源効率を高め、化石資源の利用や環境負荷を軽減し、循環する経済や社会』といえるでしょう」

 

──たとえばどのような……?

「石油由来のプラスチックをバイオベースに置き換え、さらにリサイクルもするといった活動が一例です。ゆくゆくは、今の技術では再利用できない材料も含めて、あらゆるモノを循環させていこうと考えています」

 

──すべてが循環できれば、社会システムが大きく変わりますね。

「実際は、研究者の間でバイオエコノミーといいながらサーキュラーエコノミーの話もしますし、その反対もあるような状況です。今の段階では、まだ『つかみどころがない』というのがサーキュラー・バイオエコノミーの本性かもしれませんね」

 

 

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Credit
Photo_MURAKEN
Text_Hiroyuki Yokoyama