LATEST

「サーキュラー・バイオエコノミーって何ですか?」|| 藤島義之/新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

2022.09.07|コラム

 

独自の道を歩んできた日本の環境施策

── 一方、日本での取り組みはどうなのでしょうか。

「日本の環境問題の原点は、水俣病や六価クロム事件、光化学スモッグ、水質汚染など、環境への負荷が社会問題となった1970年代だと思います。オイルショックを経て、行政は、エネルギー・環境問題の同時解決を目指したプロジェクトとして『サンシャイン計画(1974-1992年)』『ムーンライト計画(1978-1993年)』『ニューサンシャイン計画(1993-2000年)』を実施してきました。2000年の循環型社会形成推進基本法や2009年のバイオマス活用基本法によって、サーキュラー・バイオエコノミーの名が生まれる以前から目指すべき社会に向けて行動をしてきました」

 

 

──工業や家庭からの排水で汚染された河川も、今はきれいになりましたね。

「そうですね。世界の他の都市と比べると、東京は空気も川の水も非常にきれいで、ゴミの回収・廃棄システムも整っています。ただ、日本は眼の前から問題を見えなくすることがとてもうまい国だとも感じています」

 

──どういうことですか?

「たとえば家庭で生じたプラスチック素材は分別の上、リサイクルに出さなければなりません。それはとても正しい行動ですが、廃棄されたプラスチックのうち、実際にプラスチック材料としてリサイクルされたのは約25%のみで、あとの約67%は焼却、約8%はゴミとして埋め立てられているのをご存じでしょうか。日本における環境問題のスタートは、『環境への負担を減らしつつ、いかに目の前のゴミをなくせるか』でした。こうした精神が今も残っているのは、プラスチックのリサイクル率の低さを見ても理解できるところです。燃やす・埋めるでは、本当の解決になりません」

 

──なるほどです。とりあえず、くさいものにフタを・・というだけで、本質的には、まだまだ足りていない部分が大きいですね。


「視界から消えたあとまで意識しないと、本当のサーキュラー・バイオエコノミー社会を迎えられないと思います」

 

世界と隔絶してしまった日本

 

──世界で広がるサーキュラー・バイオエコノミーの潮流に、日本はうまくキャッチアップできているのでしょうか?

「いえ、むしろ日本は世界から取り残されています。私は30年ほどにわたって世界中の会議や学会に出席し、バイオテクノロジー系の情報収集に努めてきましたが、近年目につくのは日本人参加者の減少です」

 

──どうしてそのようなことに?

「憶測が入りますが、バブル崩壊を期に、産学官の海外の国際会議に出席するための予算が削減されました。また東日本大震災の混乱でも参加者は減り、世界と日本との縁が切れてしまったのです。国際社会の交渉のテーブルに参加できず、預かりし知らぬところで世界のルールが決められています。今では、中国人や韓国人のほうが圧倒的に多いですね。一度失われた世界とのネットワークを回復するには、相当な努力が必要です。日本人研究者が参加しても相手にされないケースが多く、その苦い経験からますます出不精になってしまうという悪循環が起きていて、孤立を深めています」

 

──サーキュラー・バイオエコノミーの認知が国内でまだまだ広まっていないのも、そうした状況が背景にあるかもしれませんね。

「ええ。ただ、国内での取り組みは淡々と進められています。2019年には総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)と省庁が作成した『バイオ戦略2019』が策定されました。バイオ産業の振興策を打ち出し、各自治体や企業での動きが活発化しています」

 

 

──藤島さんが興味を持たれた国内での活動はありますか?

「『バイオマス産業都市さが』は興味深いですね。もともとは市町村合併の際、清掃工場周辺にバイオ産業を創出したのがきっかけです。ごみ処理の排ガスから抽出した二酸化炭素で野菜を栽培したり、藻類を培養したり、温泉の炭酸浴に活用したりと多彩な活動を行っています。さらには、製紙会社の排水処理工程における資源の一部をバイオマス由来の資源に置き換えるなど、サーキュラー・バイオエコノミー社会が目指す好例となっています」

 

──佐賀市でそのような取り組みが行われているのですね。

「この他にも、海中の微生物にも分解される生分解性ポリマー『PHBH』を開発したカネカ、未分別の一般家庭ごみをガス化させ微生物の力でエタノールに変換する技術を開発した積水化学、効率的な発酵生産技術により世界No.1アミノ酸メーカーの味の素など、優れた技術を持つ国内企業は数多く存在しています。ビジネスではコスト競争力も重要ですが、今こそ将来を見据えて行動に移すときでしょう。SDGsがゴールとする2030年は、そう遠い未来ではありません。世界の注目が集まる2025年の大阪万博では、サーキュラー・バイオエコノミーに役立つさまざまなイノベーションを世界へ発信してもらいたいですね」

 

 

1 2 3
Credit
Photo_MURAKEN
Text_Hiroyuki Yokoyama