まるで金属のように繊細で均一な曲線を描く、木製のカトラリー。口に運ぶと、舌触りはとてもなめらかで、ほのかな温かみを感じる。酒井航さんが手掛ける作品は、手作業ならではの無骨さをあえて消し去り、洗練された美しさを誇る。そこにあるのは、修行と鍛錬に基づく確かな技術と、使いやすさを追求したプロダクト的な発想だ。
木工家/酒井 航
木工家/酒井 航 福岡県出身。岐阜県飛騨高山で木工の基礎を学んだ後に、長野県小諸で木工作家、谷進一郎氏に師事。独立後の2011年、福岡県糸島市にDOUBLE=DOUBLE FURNITUREをオープン。デザイン性に富んだ家具やカトラリー、器などを展開し、注目を集める。
――最初はオーダーメイドの家具屋からスタートしたと伺っているのですが、今は小物が中心ですよね?
「大学では建築を勉強していたんですけど、スケールが大きすぎてなんだか全然しっくりこなかったんです。建築を学ぶ流れでインテリアも学んでいくうちに、最初は家具に興味を持ち始めました。小物は家具の注文に繋がればと思って作り始めたのですが、今ではアイデア含め、この方が自分に合っているような気がしています。大学の頃、建築から家具にスケールダウンしたように、家具から小物にスケールダウンしていく感覚がありました」
――黒檀を使用したシリーズは見事ですね。
「黒檀はもともと江戸八角箸のようなお箸によく使われている素材で、カトラリーも作れたらいいなと思っていました。硬さがあるので、フォルムをより攻められるんですよ。金属のカトラリーに近いような立体感を出せないか考えたときに、硬い材料が必要になったんです」
――木材だけど、金属のような雰囲気を出してるんですね。
「手仕事でやっているけれど、手仕事の存在を消すようなスタイルで作っています。プロダクトっぽいというか、非木材的な要素を入れることで、金属のカトラリーのような高級感や見た目の硬さを表現できたらいいなと。器でいうと、セラミックというか、華奢な割れ物のようなイメージをディテールで表すようにしているんです」
――実際、パッと見ただけだと素材が何かわからないです(笑)。
「展示会の様子をインスタグラムにあげてくださった方がいたんですけど、その写真だと光の加減で木目が見えていなかったんですよ。それに対するコメントが『どこの陶器なんですか?』って。それは自分が狙っていたところですし、他との差別化になればと思っています」
――見た目もそうですが、触り心地も実になめらかですね。
「僕は作り手なんですけど、使い手の気持ちになって考えるようにしているんです。料理家さんがいて、作り手がいて、その間に使う人がいて……それを使って食べることに対してどう見るかっていうことなんですよね。だから、常に作り手であって使い手であるという目線を大切にしています」
――このデザインセンスはどこで磨かれたんですか?
「僕は美大に行っていたわけではないので、独学なんですよね。もともとガチガチの職人から来ているので。最初の頃は、木工品を買って使って、使い勝手からデザインを考えていきました。そこから今度は素材に移っていって、木製品にはない良さと、木製品が持っている良さをミックスできればいいな、それにはどの素材がいいのかなっていうアプローチですね」
――機能性を磨いていった結果、洗練されたデザインに仕上がったということなんですね。新たな作品も楽しみです。
「よりバリエーションを加えつつ、感覚も大事にしながらやっていきたいですね。自分の木工技術を見直しながら、自分に疑問を投げかけつつ、自分のスタイルを輪郭化していけたらいいなと思っています」