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変わらないこと、変わりゆくこと。そして、変わるべきこと。「坂本デニム」

2022.09.01|コラム

岡山県井原市や広島県福山市といった、広島県と岡山県をまたぐ備中(びっちゅう)備後(びんご)地域。ここは昔からデニムの産地と呼ばれてきました。その備中・備後地域で、創業100年を超える「坂本デニム」さんを訪ねてきました。


昭和42年には日本ではじめてデニムの自動連続染色機を開発し、大量の糸を染める工業化に成功。その染色技術を生かし、現在もジーンズ染色の技術革新を重ねながら、業界の中心的役割を果たしています。


手染め工房として創業し、業界を支え続けてきた染色工場が時代の変遷の中で見据える、次の取り組みとは?

 

 

Profile

坂本デニム株式会社

1892年(明治25年)の創業以来、藍がつくり出すジーンズ染色の技術革新を重ねながら業界の中心的役割をはたす企業に成長。個性的かつ高品質の染色開発に努める。またデニム業界では類を見ない「エコ染色システム」を自社開発し、従来常識的に使用してきた洗浄薬品や温水を使わないことで素材の付加を低減し、コスト削減を実現。世界中で製品製造における薬品被害や工場排水等における水質汚染や土壌汚染が問題視される中、先進国日本として地球環境に配慮した「ものづくり」を提案している。

 

 

――もともとの成り立ちは、どうだったんでしょ?

 

「このあたりは、江戸時代から、神辺縞や、備中小倉織など綿織り物が盛んな地域でした。その中で、もともとは藍染めを手染めで行っていたんですが、生地の織機が機械化するにつれて、手染めでは追いつけないという流れで、三代目の時に染色の知識や技術を活用して染色の機械化を成功させました。

戦後、ジーンズが国内に入ってきたことで、この地域でもデニム生地の開発などの仕事が増え、デニムの産地として発展しました。『坂本デニム』では昔から糸を染める専業をやってきています。

備中・備後の繊維企業はどこも歴史が長くて、だいたい創業は100年以上だと思います。昔から織物をされてきたところが、備後絣からデニムへ、小倉織からデニムへ、という形で産業が移り変わってきました」

 

 

――なるほど。時代の変化や経済の成長に合わせて、扱い方はかわったけれど。扱っているモノや仕事は100年前と変わらないんですね。

 

「そうですね。もともとは、モンペなど一般の人向けのアイテムを作っていたのが、アメリカからデニム文化が入ってきて、今度はジーンズという一般の人向けのアイテムを作っている。そういうことでもずっと変わらずです。そして、糸は糸屋、染めは染屋、織は機屋という本業の部分は、私どもを含め、まわりの企業さんも専業として変わらずやってきています」

 

 

――江戸時代の藍染め製品などを収集されていたとお聞きしたのですが。

 

「当時の色を参考に、色だし試験をして色のデータをとって、というのを会長の時代にたくさんやってきたそうです。もともとこの地域は水に恵まれていて、藍染めに適している土地柄でもあり、いろんな色づくりができるんです。その立地を活かして、たくさんの試験ができたようですね。染色と水の関わりは非常に重要で、その土地土地でしか創れない色があり、広島には広島の色があります」

 

 

――実際、会社にお伺いさせていただいて、環境に対しての意識をかなり高く感じます。環境事業に力を入れはじめたきかっけ何でしょうか?

 

「クライアントさんからの依頼でオーガニックコットンを扱いだしたとき、『染色』という薬品まみれ(でしか作れない)で色づけしている自分たちは、果たしてこれでいいのだろうか? と思ったのがきっかけです。世の中が地球環境にやさしく向き合おうとしているときに、自分たちには何ができるだろうか? 自分たちのできることを、できる方法で少しずつでも進めていければと、今につながる取り組みを始めることにしました」

 

「でも、染色ではどうしても薬品を使わないといけない。それならば、流す水をきれいにする、汚泥を畑にリサイクルできるようにする、染色時のCO2を削減する技術を追求する……など。工業生産の中で、100%はやりきれなくても、やれる部分はやる。さらに、できそうな部分を探してトライし続ける、そういう取り組みを現在進行形で進めています」

 

 

――現代から考えると、環境に取り組み始まれたのは相当に早いですね。オーダニックコットンの畑もつくられてるんですか?

 

「環境事業は10年以上ぐらい前からだとは思います。オーガニックコットンの畑は、ただオーガニックを扱うのではなく、それを作るのにどれだけ手間がかかって、どういう想いで作られているのかを自分たちも知ることで、工業の立場にありながらも、素材の扱い方に気持ちをこめることができるというか……。

オーガニックコットンでつくっても、生地の染色加工は有機ではできない。出るものは出るけれども、カーボンオフセットに近い概念で、じゃあその分を他で何かできないか? そういう想いを持続することにも繋がっているのかもしれません」

 

 

備中・備後地域でものづくりをするということは、日本のデニム史の源流と協業するということ。そして、その源流の中心にある坂本デニムが今取り組んでいるのが、環境に配慮したモノヅクリのあり方だ。

 

自然の循環の中の手仕事から始まり、工業化社会に対応した大量生産のシステムへの変化。そして今、これからの循環を模索する時代に、イチ早く環境に配慮した工業生産の仕組みづくりに挑戦し続ける坂本デニム。

 

もし、いい色のデニムウェアに出合ったら、これはひょっとして? と想像してみてほしい。江戸時代から脈々と受け継がれ、研鑽を積み重ねて生みだした色と、これからの時代が求めるモノヅクリの努力の結晶に、今あなたも触れていることを。

 

坂本デニム株式会社

〒720-2116
広島県福山市神辺町平野231
TEL:084-963-0029(代) FAX:084-963-3315

http://www.sakamoto-d.co.jp/

Credit
Text_Ryo Yoshihashi