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「日本の“夏の涼“を伝える『KORAI』」|| 柴田裕介/株式会社HULS 代表 、辰野しずか/クリエイティブディレクター

2022.09.04|コラム

日本家屋には縁側のような内でも外でもない中立的な空間があり、人々はそこで日々の生活と自然との繋がりを体感し、心を和ませてきた。夏の日に、窓を開け、風を涼む。そんな日本の“夏の涼”をコンセプトとした工芸ブランド、「KORAI」。その主な活動の場は経済やITの世界的ハブとなっているシンガポール。KORAIのブランドディレクターであり、日本工芸の海外展開事業を行うHULS代表の柴田裕介氏とプロダクトデザインを担当するデザイナー辰野しずか氏に話を伺った。

 

右)
ブランドディレクター
株式会社HULS 代表取締役
柴田裕介
1981年生まれ。デザイン会社を経てエレクトロニクス素材を扱う商社にて海外ビジネスを経験。世界15ヵ国以上の渡航経験をもとに、東京とシンガポールを拠点に日本の工芸を世界に発信する会社HULSを設立。工芸メーカーの紹介を行う日・英のバイリンガルオンラインメディア「KOGEI STANDARD」の運営も行う。2018年に工芸ブランド「KORAI」を立ち上げる。
http://www.huls.co.jp/

左)
クリエイティブディレクター/プロダクトデザイナー
株式会社 Shizuka Tatsuno Studio代表取締役
辰野しずか
1983年生まれ。英キングストン大学プロダクト&家具科卒。デザイン事務所を経て2011年に独立。プロダクトデザインを軸に企画やディレクションなど、ものづくりに付随する多岐にわたる業務を手がけている。2016年 ELLE DECOR日本版「Young Japanese Design Talents」賞など、国内外の受賞多数。工芸ブランド「KORAI」では、ブランド立ち上げに参加し、プロダクトデザイン全てを手がける。


http://www.shizukatatsuno.com/

 

 

――KORAI誕生の経緯を教えていただけますか?

柴田「もともと私はエレクトロニクス系の商社に勤めていて、アジアを中心に様々な国を飛び回っていました。その経験を活かし、日本の文化を世界に発信する仕事をしたいと思い、2015年にシンガポールを拠点に日本工芸を発信する会社を立ち上げました。その事業を展開していく中で自社でも工芸ブランドを作ろうと考えていた時に辰野さんの存在を知りました。辰野さんはすでに素敵な工芸品を作られていましたし、インターナショナルな感覚もお持ちで、しかも同世代。突撃メールをしたのがきっかけです。もう3年以上も前の話です」

辰野「工芸を掲げたブランドは国内にもたくさんあります。うっかりすると簡単にその中に埋もれてしまいます。このブランドの核は何か、なぜシンガポールなのか、国内ではなく海外でやる意味、柴田さんの真意は何か、などなど。ブランドを作りあげるまでに幾度も話し合いを重ねてきました」

柴田「当初は何をどうやってやるかなどは全く何も決まっていませんでした。とにかく辰野さんに我々のホームグラウンドであるシンガポールに来てもらえばそこで何か閃くかも、と招待したのが2016年の3月でした」

辰野「その時期はまだ日本は寒い時期だったので、まずその気温差にやられてしまい、いきなり体調を崩してしまいました。シンガポールの暑さに、良くも悪くも、心身ともに反応した、という感じでしょうか。でもあの経験がなかったら“夏の涼“というコンセプトは行き着いていなかったかもしれませんね」


――“夏の涼”というコンセプトに関してもう少し詳しく聞かせてください。

柴田「まず、工芸ブランドとして海外で勝負していくためにはプロダクトだけでなく、日本の文化も一緒に伝えていく必要があります。日本の夏の涼の取り方は、物理的な暑さを凌ぐためもありますが、息を抜く、一息つく、という意味もあります。大都会で忙しく働く人にこそ、その熱した体を涼め、癒しを与えたい。そんな思いも込めて、このコンセプトに辿り着きました」

辰野「プロダクトを通して、緩やかな気持ちになる、心の豊かさに気づく、そんなきっかけになるようなプロダクトデザインを心がけています。シンガポールではクーラーをガンガンかけて、より冷やした方が勝ち!みたいな雰囲気があります。でも窓を開ければ涼しい風も入ってきます。そんな日本的な自然観も伝えていきたいです。一方で、具体的なデザイン業務はすごく難しいです。単純に夏の涼を表現した工芸品であれば、すでに有り物がたくさんあります。ありそうでなかった新しさがあり、その上工芸観は失わず、工芸業界以外でも通用する。そんな絶妙なさじ加減を競っています」


――なるほど。ラインナップとしてはSensewareとLiving Collectionがありますが、それぞれを分けた意図は何でしょうか?

柴田「Sensewareはアートピースに近く、Living Collectionはよりデイリーユースを意識したラインです。工芸ブランドである以上、工芸っぽさは出したい。でもそこにストイックになりすぎると価格が高くなってしまいます。そうすると商品もブランドもなかなか浸透していきません。そこで、自分たちが伝えたいメッセージや工芸ならではの美しさはSensewareに凝縮させ、コンセプトを踏襲しつつも、より生活に馴染みやすいラインナップとしてLiving Collectionを作りました」

辰野「デザインする側としても、日常使いするものだけで尖ったブランドを作るのは難しい。“窓を開けて涼もう”的な概念を伝えるためには、よりコンセプチュアルなプロダクトも必要でした。この2ラインを作ったことで、ブランドの世界観がまとまった気がしています」


――今後の展望やブランドとして挑戦したいことはありますか?

辰野「この“夏の涼”というコンセプトをプロダクトデザイン以外にも派生させて総合的に表現したいと思っています。例えば食とのコラボレーションなど。壮大かつ普遍的なコンセプトだからこそ、プロダクトを作るだけではもったいない。より自由に、ブランドの世界観を広げていきたいと思います。また、KORAIでもそうなのですが個人的には日本の優れた職人技を世界に示したいという思いがあります。海外にいたからこそ実感するのは、日本人は本当に“きちっとしたものづくり”が得意。手仕事でミリ単位で合わせてくるのに、機械的ではなく、ぬくもりがある。それは紛れもなく世界に誇れる技術だと思います」

柴田「私も根本的に持っているのは工芸を海外に伝えていくというミッションです。現在、工芸の出口が海外にどれくらいあるかというと、まだ全然無いというのが実情です。多くのメーカーが海外の展示会などに出展していますが、具体的にどのお店にどれくらい卸せれば商売になるのかという感覚値を持てているところはほとんどありません。我々もまだまだですが、少なくともシンガポールに自社の販売出口を持ち、現地のお客さんと日々向かい合っています。そんな海外のリアルな感覚値を持ちながら、作り手である日本の工芸メーカーさんとも親密にものづくりができる。それこそが私たちの最大の強みです。中間を歩くことが最も難しく根気のいる作業ではあるのですが、これからもどちらかに偏ることなく、バランスをとりながらブランドを育てていきたいです」


KORAI
https://koraikogei.com/