──それでシナノソイルさんと一緒にポップコーン作りに励まれることになったんですね。
清宮「はい。ただ、みなさんから応援金を募ったものの、当初は支援先がなかなか見つからなかったんですよ。そんなとき、長野店で定期的に地元野菜の点在型マルシェを開催してもらっていた君島さんが手を挙げてくれまして。『自分らのリソースを割いて、長野の耕作放棄地に新しい価値を見出せる場所に変えていくんだ』と。それでシナノソイルを設立してもらい、ご一緒することになりました。他にも、日本ポップコーン協会会長の渋川駿伍さんや、地元で農業を営むはまちゃん農園の浜田さんなど多くの方の協力もいただき、みなさんのお陰でここまでこれました」
──服をセレクトして販売するという、従来のセレクトショップのイメージから考えると、フリークス ストアは実に幅広い取り組みをされていますよね。
清宮「我々もどう定義していいのかわかりませんが……人と人とがつながる場であることが大事だと考えています。買い手と売り手の関係だけでなく、地域に根付いた方やクリエイターなどがつながり、モノやコトの背景にあるストーリーの理解を深めて、また新たな価値も生まれていく。そこまで踏み込むのが我々が目指す世界で、単純なマーケットプレイスでは収まりません。だから、この『シナノポップ』のように、地元の方と深くつながれるのはすごくうれしいんですよ」
──個人でもSNSで発表できる世の中になったとはいえ、やはりたくさんの人が協力しあってこそ、もっと面白いモノが生まれやすくなりますもんね。フリークス ストアが、そうした人々を橋渡しする存在になると。
清宮「そうですね。前は『日本では買えなかったブランド』『ここでしか手に入らないレアモノ』が最も価値ある存在のように思われてましたけど、それらはもうスタンダードすぎてしまいました。今は、なんらかの活動や表現に共感した人が手に入れたいと思えるようなモノを提供することに、価値があると思っています。これだけ世界がネットで繋がって、全部が均一化しているんだったら、むしろ各都市・各地方にしかないものを見つけるほうがおもしろいですよね。僕らの店舗名にある『フリーク』は『情熱』のことで、やっぱり情熱を持ってこそ人の心に伝えることができます。地元の農業関係者や学生たちに汗水垂らしてもらった『シナノポップ』はものすごい情熱が注がれていて、とにかくむちゃくちゃいいモノだと思うんですよ」
──耕作放棄地という問題も、まず情熱を持つことが大事なのかもしれませんね。
清宮「それが一番いいと思います。『よくわからないけど、収穫体験に参加してみたら超面白かったよ』と思ってくれたら、入り口はそれで完璧。いきなりアカデミックな視点から問題を投げかけても、『意識高い人』ばかりじゃないですからね。僕らはファッションの業界にいて、カルチャーにまつわることを手掛けてきた立場からすると、カルチャーとして残るのって、やっぱり楽しかったりかっこよかったりと直感的な良さがあるものなんです。我々はそうしたフィルターを通して、地域の課題解決に貢献していきたいと考えています」
地域の課題解決に若者のパワーを活用
収穫体験も一段落つき、昼食タイムへ。参加者には、シナノソイル代表の君島登茂樹さんが本業である飲食業のほうで設えた仕出し弁当が振る舞われました。地元野菜がたっぷり入った自慢の品とのこと。昼食中の君島さんをつかまえて、今回のプロジェクトについて話を聞きました。
──「フリークス電気」の応援金の受け皿となるべく、NPO法人シナノソイルを設立したと清宮さんから聞きました。手を挙げたのは、どうしてですか?
君島「本業でも学生バイトを雇っているんですけど、彼らと一緒にいると新しい価値観をたくさん学べるんですよ。『そんな考え方するんだ!?』って知的好奇心がくすぐられることが、僕にとって大きなモチベーション。今回のプロジェクトも、学生をボランティアに招いて活動すればもっと面白いことになりそうだなと感じたことが大きいですね。もちろん、耕作放棄地の問題もずっと身近に感じていて、どうにかしたいという想いがありました。飲食店を営んでいる仕事柄、農家の人と直接お話することが多いんですけど、やっぱりそんな話がちょくちょく出るんです。40代、50代でも若手の世界で、マンパワーもないですし、なかなか難しいところで……ここに何かしら若いパワーを注入できたらいいなって思って」
──ずっと長野で飲食業を?
君島「はい。大学は東京だったんですけど、卒業後は長野に戻ってすぐに飲食業を起業しまして。それもあって長野の農業や食の現状は把握できているんですけど、なかなか打つ手がなくて。トウモロコシを栽培してポップコーンを作るというのは、学生の子たちが先頭に立って考えてくれたんですけど、シンプルな戦略でいて意外と誰もやってなかったんですよね。国産のポップコーンって7%程度しか流通していないそうで、長野のトウモロコシが根づけば、新たな地域の名産として地位を確立できる可能性があるんです。フリークス ストアさんと組むからには、若い人に向けても訴求できるわけですし。それに、トウモロコシだと周囲に競合がいないのも利点なんです。あまり怒られない(笑)。『そんなの作っても儲からないぞ』とか『家畜のエサにしかなんないぞ』とかよくいわれますけど、そんなふうには僕らは思っていなくて。これを続けていけば、きっと上手くいくって思っています」
──期待通り、若い子たちから新しい価値を得られたんですね。
君島「すごく活発ですね。好奇心がすごく旺盛で、こちらがいわなくても自分でどんどんリサーチして、なんでも調べてきますからね。みなすごく優秀ですよ。県外から長野の大学に来た学生もいますから、そうした子には長野のよさを味わってほしいしね。東京からも近いし、何かあったときの逃げ場でもいいから」