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“服のリサイクル”の実情 || 門倉建造 / 門倉貿易株式会社 代表取締役

2022.09.17|コラム

私たちの暮らしに欠かせない「衣・食・住」。SDGsの理念が浸透していくなか、“ファッション”の名の下で大量に消費されていく「衣」への関心は、日々高まっています。

20年以上前から提唱されていた3R(リデュース・リユース・リサイクル)の仕組みはどこまで浸透したのか? 企業や人々の意識は変わったのか? 神戸の繊維リサイクル企業に勤めるスペシャリスト、門倉建造さんに実情を伺いました。

 

Profile
門倉建造さん

門倉建造さん

限りある資源を大切に使いながら社会貢献を目指す、門倉貿易の代表取締役。服のリユース、リサイクルのスペシャリスト。同社では、各家庭などから回収された古着をもとに、機械の整備・清掃及び塗料や油等の拭き取りに使用される工業用の布(雑巾)「ウエス」の製造・販売や、独自に開発した100%繊維系リサイクルボード「リフモ」の製造販売、東南アジアから中近東の国々やアフリカ諸国など発展途上国へリユース古着の輸出に取り組んでいる。元日本繊維屑輸出組合理事長。元京都工芸繊維大学繊維リサイクル技術センター特任教授。

 

素材革命が起こるほどに難しくなる衣料リサイクル

 

本社のある神戸市内から西へ車で1時間と少し。たつの市の中心から少し外れた場所に、2500坪という広大な敷地を持つ門倉貿易のたつの工場がありました。出迎えてくれた門倉建造さんと挨拶を交わす最中も4トントラックが行き来して、中古衣料を運び入れていきます。2階の一室では、10名近い女性工員が衣類の選別作業に従事していました。

 

 

──選別作業にあたっている方々は女性ばかりですね。

 

「ほとんど主婦の方ですわ。主婦のパート。男を立たしても、まずできへん。やっぱりね、奥さんは洗濯でしょっちゅう衣類を触ってるでしょ。感覚がある。もちろんわからんかったらタグを見て確かめるんやけど、慣れれば慣れるほど、さわった段階で『あ、これ綿や』『やっぱ綿70%だわ』とかわかるんですわ。我々にはできません。聞かれても『どっちかな?』って(笑)」

 

──ここではどういう選別をしているんですか?

 

「使われている繊維や色、大人用かこども用かなど、約100種類に分けとります。リサイクル衣料というのは2つとして同じものが入ってきませんので、機械化できへんのです。我々、非常につらいところですけど、どうしても手の感覚が必要な労働集約産業なんです。こういう形で、月間300トンぐらいの選り分けをしております」

 

──相当な量ですね。国内全体で考えれば、かなりの数になるんでしょうか。

 

「2001年に経済産業省から委託を受けてましてね、1999年度の年間ベースで調査したことがあるんです。ざっというと、まず繊維製品の消費量は日本全国で230万トン。そのうち、一般消費者から171万トン、産業部門から36万トンが排出されています。作った分の9割近くですわ。排出されたなかから回収されるのが26万トンで、これが再生資源になるんです」

 

「リユースされるのは、そのうちの10万トンと5%ほどです。調査からはだいぶ年月が経っていて、いまではフリマアプリなどのリユース方法も増えていますけど、今でもそう大きく変わってへんのだろうなと推測してます。特にリサイクルの部分はずっと間近に見てきてますからね、間違ってへんですよ」

 

──回収は、古紙と同じように行政によるものですか?

 

「そうそう、そういう行政回収だとか集団回収、あるいは学校の子供会とかね。昔はくるっと風呂敷に包んで回収場所に持っていったもんだけど、今は中がわかるように透明のビニールが推奨されとるじゃない? そうするとね、『この家は汚いもんや下着出しよる』って思われたくないから、どうしてもええもんを出したがるということがありましてね。我々としてはなんだっていいんですよ。汚れている部分はカットするだけですから」

 

 

──たとえば東京23区はリユース品として海外への輸出を前提に古着を回収しているようで、「汚れがあるもの」は避けているようです。

 

「リユースでもいいけど、我々としては工場に欠かせないウエスに加工する手があるから、資源として出してもらえたらいいんですけどね。リユースできそうにないものでも。下着だってありがたいんですよ。この、古着を出す側と古着を消費する側の感覚には、かなり大きなずれがありますね」

 

「たとえば女性用のブラジャーなんか、海外向けにものすごく需要があるんです。日本だとひとつ3000円とか4000円、高いもんだともっとすると思うんですけど、我々がブラジャーを輸出するときは、100kgで600~700円程度。現地ではおそらく1つ10円しないでしょう。それでいて品質がいいから大評判なんですわ」

 

「ところが日本人は、『私が着古したブラジャーなんてだれも使わないわ』と思ってゴミにしてしまいやすい。そうじゃないんですよ。逆に、『これはすごく高価だったから喜んでこんでもらえるわ』といって出してきた冬もんのワンピースは、海外では暑くて着れないし、旬が外れていれば日本でも古着で売れない。出す側と受ける側のギャップを感じることが、実際起こっています」

 

 

──近年は、アパレルメーカー自らが古着の自主回収に力を入れていますよね。

 

「動き自体はけっこうなことだと思います。ただ、何でもかんでもええわけではないですよね。自社商品に限っていたりね。それに『リサイクルしますよ』といえばありがたがってくれて、次の一着を気兼ねなく買えるという宣伝の部分も大きいんやろうなと。もちろん企業は利益を追求するわけですから、非難するつもりはございませんけども」

 

「また、リサイクル回収の窓口はショップや百貨店であっても、結局は我々の業界を経由して処理することがほとんどです。昨今叫ばれているSDGsやサステナブルをもっと推進していくには、こうした企業の動きに加えて、やっぱり行政もしっかりしていかなきゃいけません」

 

 

──先ほど数字で教えてもらったように、アパレル繊維産業は大量生産・大量消費の構造から脱却できず、サステナブルやサーキューラー・バイオエコノミーといった観点からするとなかなかつらい立場が続いていると思います。

 

「2000年に循環型社会形成推進基本法ができて、官民上げて廃棄物やリサイクルの取り組みが進んでいったわけですよね。繊維製品の排出量は、ペットボトルや家電、建築廃材なんかと比べてもかなり多いほうですから。それで、それまで繊維材料としてリサイクルできたのは綿だけやったんですけど、ケミカルリサイクルも進められました。一部の大手繊維メーカーが、ポリエステルやナイロンのリサイクルを可能にしたんです」

 

「でも、同一の化学繊維100%だったらいけるんやけど、他の素材が混じっていたらうまくいかへんかったんです。今ってポリエステルやらアクリルやら、いろいろ混紡しているでしょう? 綿と混紡しているだけやったら、綿部分を焼却して残った化繊でリサイクルできるそうなんですけど、そういう生地ってだいたい綿の割合のほうが高いから、残った化繊だけじゃコスト的に割りに合わない」

 

「そういう意味で、ケミカル繊維のリサイクルは非常に難しい。ペットボトルやダンボールの原料は見たまんまやからね、やりやすいけど、衣類はジャケットなんかパーツごとに素材がバラバラだから。もう大変なんですよ」

 

──特に近年に流行している機能素材には、多種多様な原料が使われていますよね。

 

「特に肌着なんかがそうですよね。合成繊維は原料にリサイクル処理しにくいし、油を吸わないからウエスにもなりまへん。発熱機能のある生地を、クソ暑い東南アジアや中東になんか輸出できへんでしょう? 結局ゴミにしないといけない。素材革命がどんどん起こって機能性が高まるほど、リサイクルしにくくなるというのが実情なんです」

 

 

 

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Credit
Photo_Ryo Yoshihashi
Text_Hiroyuki Yokoyama