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サスティナビリティの先端、徳島県・上勝町が ゼロウェイスト宣言の先にみる未来 || 東 輝実/カフェ・ポールスター店主

2022.09.19|コラム

 

──その考えをもとに進めていることはありますか?

 

「ここ2年ほど考えていたのは、個人としてどう生きていくかということなんです。私は上勝でどうなりたいのか、何がしたいのかということを改めて深く考えました。ここに帰ってきて何かをするということは、きっとやらなければならないことがあるんだろうけど、それは何なんだろうと考えていった結果、最終的にINOWプログラムに行き着きました。今、実際に行っているのは、10日間上勝に滞在してもらう中で、できる限り町民と同じ暮らしをしてもらうということです。普段の暮らしとは全く異なる価値基準で生活している人達の中に入ることで、見つかる新たな自分があると思うんですね。そこを考える機会が持てたらいいなと思っています」

 

 

母親が目指していた世界とは。
繋げていきたかった未来とは。

 


 

──東さん自身の考えにも変化が訪れているんですね。

 

「ゼロ・ウェイストを解釈していくと、最初はゴミのことがメインだったんですけど、やっぱり自分が使う労力や時間やお金についてもう少し考えることが必要に思えました。いろいろなバランスで生活している人に体験を通じて学ぶことで、自分自身が変わるような経験が上勝ではできるのではないか、それがINOWプログラムのコンセプトになっています。デンマークのフォルケホイスコーレという学校に近いのですが、何かしら立ち止まって考えた時に、人々が訪れる場所になればいいなと。参加者の方には民家を貸し出していて、そこでゴミの分別を含め、実際に上勝の生活を体験してもらって、その中で“考える”作業を実践していきます。持続可能性のひとつの解釈として、上勝の哲学を目に見えない形で、かつ継承できる知識やカリキュラムという形で残していくことが、私の使命なんじゃないかと思うようになりました」

 

──具対的にはどのようなカリキュラムを想定されていますか?

 

「上勝町も、2030年に向けて、ゼロ・ウェイストタウンをどう作るかという計画策定に入るので、学校づくりについての委員会を設けるなど、これから検討を始める段階です。日本にある自然学校なども含めて、レイヤーで分けた時に、上勝はどこにマッチするんだろうという話をしていたのですが、そこである程度見えてきたのが専門学校という形です。3つのコースを考えていて、ひとつはサステナビリティとして行政の立場から政策について考えられるコース。2つ目はどうやってものづくりをしてどうやって経済を回すのか、もしくは経済ではない回し方があるのかを考えるマーケティングのコース。そして、一番わかりやすいのが3つ目の『食』を考えるコースです。例えば、将来サステナブルレストランを開業したい人が、自分たちで上勝の有機農家さんから畑の土の作り方から教わって、自分たちで野菜を育てて、自分たちで料理をして、町民の食堂のような場所で振る舞い、寮生のご飯にもなるといった形です。彼らにとってはプレゼンテーションになるし、町民の人達にとっても、一緒にご飯が食べられる場所が生まれる。そういう形で全てが繋がっていくカリキュラムができればいいなと思っています」

 

──新しいゼロ・ウェイスト宣言の“自分たちの暮らしを豊かにする”ということにも繋がっている気がします。

 

「もともと、私の母親がNPOを立ち上げた時、『ゼロ・ウェイストアカデミー』という名前をつけているんですね。なぜ彼女がアカデミーと名付けたのか、本来どのようなものが作りたかったのか、それが今は自分の中ですごくクリアになった気がしています。母はこういうことがやりたかったのかと思ったのと同時に、何だかすごくすっきりしました。カフェはひとつの表現の場としてとても重要なのですが、終着点としての目標は、上勝の人だけでなく、いろいろな人が自分のことについて考えられる仕組みを作っていくことなのだと思います。上勝の伝統文化やゼロ・ウェイストという哲学的なものも含めて、学ぶ場所を作ることが、私にとっての挑戦であり、私ができることなんじゃないかなと思っています」

 

多くの地域が変化を起こせない中、その地域の課題を自分ごととして捉え、地域に希望を与える東さんの取り組み。お母様から受け継いだ、知識や考えを共有する「場」作りによって、上勝町はまた新たな一歩を踏み出しているようです。既にある財産と人が緩やかに繋がっていった時、東さんが撒いた種が芽を出して、ゆっくりと根をはり、いつか美しい花を咲かせるのかもしれません。それは一朝一夕にはできないけれど、着実に広がっていく未来への架け橋です。

 

 

 

Profile
エディター&ライター/藤原 綾

エディター&ライター/藤原 綾

早稲田大学卒業後、保険会社でのIT推進、出版社での女性誌編集を経て2007年に独立。以来、雑誌や書籍、カタログ、写真集の編集、ライティングの他、ルポタージュやコラム、トークショーなど幅広く活動。集英社『よみタイ』にて、『42歳からのシングル移住』連載中。

42歳からのシングル移住 https://yomitai.jp/series/fujiwara/

 

 

 

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Credit
Photo_MURAKEN
Text_Aya Fujiwara