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地域を循環させる『ネイティブスケープ』の仲介役を果たしていきたい || 白水高広 / うなぎの寝床代表

2022.09.16|コラム

 

──地域の雇用創出とは、また社会貢献度の高い仕事ですね。そこではどのような体験を?

「はじめはプログ講座やマナーアップ講座を開いてスキルアップを促し、就職率を上げるという事業スキームだったんです。でも、事業者側の受け皿がないと雇用は生まれないという結論に達しました。地域事業者のブランディングや商品開発を支援しながら、商売繁盛を喚起して雇用を生もうというプログラムも実装されました。僕は主任推進員として地域事業者と話をし、直面している課題に見合った専門家を招いて解決に導いていく立場として、2年半で60~80ほどの案件に携わりました」

──それはまたすごいですね。これまでのお仕事の内容とは大きく異なるように思えますが。

「『今ある資源を有効活用して、伝わっていないものが伝わるように変えていく』という意味では、グラフィックデザインも推進員の仕事も同じですよ。表現する形が違うだけで。『デザイナーが街づくりをやりはじめた』とかいわれましたけどね。でも、世の中をよく理解していない若者だったのも事実で、事業者とディスカッションを重ねることで都市部と地方での意識の違いなど、たくさんのことを学びました。それに、やっぱりその頃は都市への憧れもあったんですけど、強く興味を惹かれる人って地域事業者のほうが多いことに気づいたんです。地に足をつけて活動している人たち、ですね。そうした人たちの魅力をみんなが知らないのはもったいないなぁという想いが、だんだんと募っていったんです」

 

──それが、うなぎの寝床をはじめるモチベーションになっていったんですね。

「はい。任期を終えて4ヶ月後にはうなぎの寝床のアンテナショップをはじめました。『九州ちくご元気計画』は雇用創出を目指す厚労省の事業だったので、どれだけブランディングや商品開発を進めても、実際の経済活動まで手を出せなかったんですよ。でも、やっぱりその先の部分までやってみたかったんですよね。じゃあ、自らやってしまおうと」

──小売業は初めてですよね? 大変だったこともあったのでは?

「今思えば、めちゃくちゃやっていたなと思います(笑)。地域文化のモノを売る場を作ろうという、使命感だけで突っ走っていましたから。決済や仕入れ方法など、問題が起きるたびにどうにか解決して……の繰り返しでした。ただ、最初から買取仕入れを行うことだけは決めていました。小売店側に在庫リスクがない委託仕入れでは、モノの見極めが甘くなり、本当は価値を感じてないモノも仕入れてしまう可能性が出てしまうと考えてからです。それに、作り手側としても買取のほうが経営的な安定も得られますし、僕らの覚悟も示せる。作り手との関係性を高めるためにも、買取仕入れは不可欠だと考えたんです」

 

──10年近く事業を営み、店舗も3つになりましたが、事業はどのように変わっていきましたか?

「最初は、自分たちが好きな商品だけを積極的に集めていました。でも、僕たちの『好き』と社会にそこまで強い結びつきはないと気づいたんです。それよりも、社会から求められていることや、目の前にある課題に注目するようがいいと考え、切り替えました。地域の作り手や生活者の想いが一番で、僕らはあくまで仲介者。主体ではないのだと。地域に暮らす人々が自ら考えて行動し、自律した生態系が確立した『ネイティブスケープ』の実現が目指すべき道だとわかったんです」


──地域事業には継承者不足など、さまざまな問題があると聞いています。

「地域文化は、継承と収束がなされています。人材や経済の問題を克服して継承されていく文化もあれば、そうでない文化があるのも事実です。無理やりにでも残すというのは正しい選択ではなく、かといって、すべて失ってしまうのも残念な話。辞めるという決断を尊重しつつも、もし引き継ぎたいという希望者が現れれば復活できるようアーカイブにしておくなど、状況をうまく収束する方法も検討しています」

 

──すばらしい取り組みですね。なかなか大変そうにも感じますが……。

「そうですね。僕らが主体になると話が変わってくるので、あくまで仲介の立場に留めているのですが、それだとスピード感が出ないのがネックですね。今の世の中のスピードはものすごいですから。……ただ地域文化って、ものすごいスピードで膨張している資本主義に迎合していないからこそ、地域文化であり続けている部分もあると思うんです。だから、スピードが出ないのも当然で。もちろん、ITなど活用できることは積極的に取り入れなくてはいけないんですけど、地域文化らしさも残すためには、バランス感覚が問われるんですよ」

 

──たしかに、地域文化には変わらないことの良さを求める人も多いでしょうね。

「長く続いてきたからこそ変わりにくいし、変わらない。仲介者の立場は守りつつも、今後はもう少し主体的に介入していってもいいのかな?と感じています。たとえば久留米絣の産地も、誰かがM&Aや吸収合併を推進していかないと、経営難や継承者問題で小規模工場がが一気に減ってしまう危険性があるんです。しかも、このコロナ騒ぎによって時間的な猶予も急速に失われてしまいました。ある程度のリスクを負い、当事者たちと意見交換して行動を起こさないといけないと思っています」

 

 

 

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Credit
Photo_Kozi Hayakawa
Text_Hiroyuki Yokoyama